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吃音と場面緘黙について理解を深める(全5回): 場面緘黙の定義と診断基準


場面緘黙の定義

場面緘黙、もしくは選択性緘黙(Selective Mutism)は特定の場面、状況(学校、外)での発話が困難である状況である。この発話困難の程度は、一言も言葉を発せない状況から小声程での会話なら可能な程など様々である。かつては “Elective Mutism”という「自主選択的な緘黙」で、話せないではなくわざと話さないと考えられていたが、アメリカの精神障害の診断マニュアルのDSM-IV以降は “Selective Mutism” という、「不安のために特定の場面で話せない」病気として扱っている。


発症率は約0.2 ~0.5%程で女子がやや多い。2歳から5歳までの間に発症することが多く、入園や入学時に気づくことが多い。また、自然に改善することが一般的には多いが、成長しても緘黙が続いたり、緘黙の代わりに社会不安や社交不安が発現する例もある。そのため、この症状への治療アプローチは、緘黙状態だけでなくそれに至るまでの心理的要因や当事者が不安を感じやすい場面・環境要因などを改善させる複合性が求められる。


原因

場面緘黙の主な原因は、当事者自身の要因、家族間の遺伝性、そして環境要因の複合であることが多い。生来要因では、知能や言語の未発達、言語を司る脳領域の異常などである。家族性では、場面緘黙を抱える子供の家族間に極度の内向的な親族が多かったりすることが多い。環境面では、上記の様な学校や幼稚園への入学・入園や引っ越しなどの新たな環境に急激な適応を要求された場合に発現しやすい。しかし、確定的な原因はまだ発見されていない。決して、「母親の過保護」や「虐待のようなトラウマ」が原因ではない。


診断基準:DSM-5基準

  • ほかの状況で話しているにもかかわらず,話すことが期待されている特定の社会的状況において,話すことが一貫してできない。

  • その障害が,学業上,職業上の成績,または対人的コミュニケーションを妨げている。

  • その障害の持続期間は,少なくとも1カ月(学校の最初の1カ月だけに限定されない)である。

  • 話すことができないことは,その社会的状況で要求されている話し言葉の知識,または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。

  • その障害は,コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症)ではうまく説明されず,また自閉スペクトラム症,統合失調症,または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

基本的に、上記5項目を満たした場合に場面緘黙と診断される。

WHOが定めている国際疾病分類では、場面緘黙は正常な言語理解能力かつ社会的コミュニケーションに十分な言語発話能力があるにもかかわらず、特定の状況で話せないという、会話が著しく情緒的に限定され、選択される病態と表記されている。


  診断の為の方法はいくつかある。例えば、

  • SMQ (Selective Mutism Questionnaire):保護者が16の質問に答える。場面緘黙の症状の程度を知る。

  • 安心度チェック表・発話状態チェック表:生活場面の子どもの不安や発話の状態を把握するためのチェックシート。主に、保護者や教師のような周囲の大人からじょうほうを得る。

  • PVT-R(Picture Vocabulary Test-Revised): 提示された絵に指差しで回答する為、場面緘黙でも可能。言語理解能力を量る。

もし、場面緘黙が疑わしい場合は心療内科やことばの教室、療育センターに相談することが推奨される。


〈参考文献〉

  • 角田圭子 「場面緘黙のアセスメントについて」日本保健医療行動科学会年報 27 (2012): 68-73

  • 中島裕子 「場面緘黙の理解と適切な環境設定に関する考察 ―A君の支援を事例に」社事業研究 54 (2015): 49-54

  • 日本緘黙研究会 「場面緘黙(ばめんかんもく)の簡単な説明」日本緘黙研究会

  • 久田信之, et al「場面緘黙(選択性緘黙)の多様性 ―その臨床と教育―」不安症研究 8.1 (2016): 31-45

  • 矢澤久史 「場面緘黙児に関する研究の展開」東海学院大学紀要 2 (2008): 179-187


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